異端の戦争映画とあったが、テレンス・ マリック的な超越映画とは違い、ストーリーがあり、 少ないとはいえセリフも想像よりはあるので、 精神世界というわけではない。いわゆる戦争映画と違う点は、 背景を理解するべきではあるが、戦争そのもの、 戦いを観せる映画ではなく、 主人公個人の心と行動にスポットを当てたものだということ。
ジャングルを進むが、戦闘シーンはほとんどない。 リアルな死体のシーンは多くあるけれども、殺戮のシーンはない。 ロベールの相棒となったカヴァニャでさえ敵に殺られたわけではな い。しかし、 じわじわと侵食する終わりのない戦争の極限を感じさせる。
復讐心と ぶつけようのない怒り、虚無感、心の苦痛に悩む主人公ロベール。 ロベールが前屈みに独り座っている戦地のベンチ、 彼の背後のものの動きは 時間が止まったようにも 早送りのようにも 巻き戻しのようにも どうにでもなる、ロベールの出口のない心の闇を表す、 全てを語るシーンなのかもしれない。
ロベールがマイに初めに会った自分のことを覚えているかと何度も 聞くのは、客の1人ではないと思いたい気持ちの表れだ。 復讐心がぶれるほどにマイのことが気になる自分に戸惑うロベール だが、この件はかなり映画自体の流れを揺るがしている。
ジェラール・ドパルデューの朗読、 苦痛と愛についてが意味深だが、ロベールと関わる自称作家、 マイの近くにもいるようで、ジェラール・ ドパルデューだから存在感あるものの、 彼の立ち位置の意図がわかりにくい。
マイは終幕、次の段階に入っていたが、真相は不明。 マイがロベールと最後に会ったときに言おうとして伝えられなかっ たことは? カヴァニャの告白は必要か?
ロベールが復讐心を燃やす相手は 結局劇中一度も姿を現さない。彼の敵を執念で追い続け、 罠らしき少年も失踪、 もはや現地兵の中にフランス人はロベール1人だけとなり、 途方に暮れているのか、何かを考えているのか、 彼の精神状態に焦点を戻したような 時間が止まった長いシーンで。ロベールの闘いは、この映画は、 終わらない。